2019年7月30日火曜日

NHKの存在価値をどのように評価するか?

足立康史さんの記事「NHK改革を地上波にのせたN国党の功績」を読んで驚きました。今後も勢力を拡大して、様々な改革に取り組んでいこうという政党の議員としては、視野が狭すると思います。

NHKの問題は「見たくない人間は見ないのだから、金も払わなくていい」というレベルの低い問題ではないと考えています。

私は、NHKの根本的な論点は「NHKは公共放送なので、NHKを見ない人にとっても社会全体に及ぼす影響という観点では存在価値はある。その効果をどのように評価し、そのコストをどのように負担するのかというか」という点にあると考えていますが、そのような観点での議論が深まらないことに不満を感じています。NHKをスクランブル放送にしてしまうという意見は公共放送という観点が欠落していると思います。

私はNHKの存在は市営図書館に似ていると考えています。世の中には市営図書館を全く利用しないという人は大勢いますが、図書館があることによって、その地域の知的水準や文化水準が向上することによることのメリットは広くその地域に住む人に及ぶので、本を借りない人にとってもメリットがあり、広く市民から集められた税金で運用することが許容されているのだと思います。

NHKも同じで、公共放送として日本全体の知的水準や文化水準の向上が存在目的なので、テレビを持っている人は誰でも見ることが見ることができなければならないし、民放が視聴率の関係で放送できないような地味だけど国民が知っておくべき内容についても放送をする必要があると考えています。WOWOWのように映画や特定のスポーツに興味のある人だけ見ることができる放送とは根本的に存在意義が異なると考えているので、スクランブル放送にしてしまうということは解決策になりません。

NHKが市営図書館と異なるのは、「報道」という行政機関と距離を置かなければならない機能があるため、税金ではなく、受信料という方法で運用費用を賄うことにしている点にあるのですが、この点こそが時代の変化に伴って変化が求められている点であり、公共放送という観点からどのように変えていくのかを議論しなければならないと考えています。

私の意見は以前に投稿したとおり、NHKは税金で運用すべきということです。理由は、公共放送としての目的が「国民全体の知的水準や文化水準が向上」であることと、行政機関の政策が複雑さを増しているのに対して、民放の報道機関が過剰に反体制的で正しく政策を理解するための報道という点で問題があるためです。

かつて、太平洋戦争中に大本営発表が行われていたときは、NHKしか情報源がなくて、その唯一の情報源が嘘を報道していたことが問題だったのですが、今では、十分な数の民放があり、個人でもYouTubeで放送に相当する行為を行うことが可能となり、どの報道機関であっても問題のある報道を行えばネットで総ツッコミが起こる時代であれば、NHKが税金で運用されたとしても問題ないと考えています。

この点については、「そもそも公共放送はいらない」、「受信料に固執すべき」等の意見があると思うので、多様な意見が戦わされてもいいと思います。

さて、NHKが公共放送として期待されることとして以下の効果が挙げられます。たとえNHKを見ない人であっても、NHKがこのような放送を行っていれば、社会全体が良くなるという形でメリットを享受できます。

1.教養番組
実施することの効果は前述の図書館と同じと考えています。「コズミックフロント」や「英雄たちの選択」のようなクオリティの番組を民放で作ることは無理だと思います。

2.国や自治体の制度の理解向上
民放では視聴率の関係で敬遠される点ですが、社会制度が円滑に運用されるために必要なことです。このような地味でややこしい問題について分かり易い番組を作るためにはそれに特化した人材を育てる必要があり、民放にはできない課題であると思われます。

3.海外への情報発信
NHKの報道は正しいのかという問題はありますが、少なくとも欧米の報道機関がろくに取材もせず、いい加減な情報を発信している現状では、日本の報道機関が十分な取材のもとに適切な情報発信を行っていくことは重要な意味があると考えます。

3.健康番組
特定の病気になったときに関する情報番組は健康な人には関係ないのですが、その病気になると死活問題となるので、様々な病気について正しい情報を提供してくれる番組は重要なのですが、「きょうの健康」のような視聴率を取ることよりも正確な医学情報を提供することに特化した番組を作ることは民放ではできません。民放がやると「あるある大事典」のような末路にならざるを得ないと思います。

4.地方都市での放送
東京に住んでいれば民放の数は十分ありますが、地方都市ではそのようなことはありません。日本のどこに住んでいる人に対しても、適切な情報提供を行うことは重要なことであると考えています。

5.古典芸能
私もほとんど知識はありませんが、日曜日の夜に教育テレビで放送されています。私も見ることはありませんが、このような放送が行われていて、国民が古典芸能に触れる機会があることには意味があると思います。

最後に
私はNHKはよく見るので、今後も今のような放送内容を続けてもらいたいと考えていますが、NHKの存在について肯定的な記事を書くのが私しかいないというのは、NHKはそんなに必要とされていないということでしょうか?

井上 孝之

プロフィール
NHKの教養番組とテレビ東京の経済番組に加えて、最近は朝ドラも見るようになった技術系サラリーマン



4 件のコメント:

  1. 井上さんのご意見にほぼ同意です。見たくない人は見ないでいいという論議は乱暴過ぎ。しかしながら、現在のNHKのあり方は、公共放送本来の目的を逸脱している部分があることは否めません。公共放送にこれほど多くの娯楽番組が必要なのか。本来の目的に特化するのなら、規模縮小、コスト削減、視聴率を意識した番組作りの排除が必要かと。また東横インに下された最高裁の判決には納得できないものがあります。受信機単位での徴収はあまりにひどい。仮に全ての電化製品全てにテレビ受信機能を付加すると、際限なく受信料は肥大していきます。国民一人(全ての日本国居住者対象)の負担を決めて徴収し、その予算内で番組製作するのが最善かと思います。このような意見をどこに出したら良いかわからず、井上さんにシェアさせて頂いております。

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    1. 書き込み、ありがとうございます。
      ほとんど賛同を得られないと思いながら書き込んだので、賛同が得られてうれしいです。
      ご指摘のように、HHKの放送内容、適正な予算規模、その予算の負担方法をセットで議論していく必要があると思っています。

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  2. 受信料制度を巡る最高裁判決に拠れば、”放送を,国民の知る権利を充足し民主主義発展に寄与するもの”としていて、”受信契約の締結を強制することも,必要かつ合理的な範囲内”となっています。前段の部分について十分な議論がされていない、むしろ蔑ろにされた状態で受信料制度の正当性を主張されてもなぁ、というのが率直な処です。
    NHKの事業内容が現状のままであるならば、受信料負担の公平性の点からも放送のスクランブル化を支持しています。このNHKの事業内容、姿勢と受信契約義務の正当性の議論を切り分けない限り建設的な話にはならない、と考えます。

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    1. 書き込み、ありがとうございます。
      虚弱な作業員(青)さんの「NHKの事業内容が現状のままであるならば」がキーワードですね。
      「NHKの事業内容をどうすのか」と「費用負担をどうするのか」の2つの軸で考えていく必要があると思います。

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